企業が社員に教育を提供するのは企業のためだと前回はお話しました。それでは次に企業は社員に何を教育すべきなのでしょうか?今回はOff-JT教育として最初に学ぶべきものを提示したいと思います。


もちろん、企業が社員に対して要求する能力は多種多様であり、また状況如何で求めるものが変わります。ですから、一般化することは難しいのですが、今回はそこを敢えて、「最初にこれを教育すべき」というものを提示します。



先に結論を言うとそれは「簿記」です。まずは社員全員に簿記を習得させてください。



言うまでもなく、企業は利益追求のために存在しています。ですから、利益をいくら稼ぎ出したかということがその企業に対する評価です。その評価指標として機能するのが財務諸表です。



もちろん、様々なステークホルダーが企業の評価指標として財務諸表を使用しています。それと同時に、その企業が企業自身を評価するにも財務諸表が使われています。ですから、財務諸表を読む能力は企業に勤める人達にとって必須のスキルと言えるでしょう。



例えるなら、財務諸表の読み方を知らずに企業活動を営むことは、点数計算の方法を知らずに麻雀をするようなものです。麻雀をしたことのある人は分かると思いますが、点数計算を知らずに参加するなんて、本当にいいカモでしかないです。点数計算を覚えることは勝負の土俵に上がるための最低限の武器です。



しかし、工場の作業員やPCに伝票入力しているだけの事務員などの単純作業をしている社員にも簿記を勉強させる必要があるのでしょうか?



この疑問に対して、僕たちはできるだけ全員に簿記を学んで欲しいと考えています。そういうと、全員が簿記を知る必要はないと反論されるでしょう。確かに企業は役割分担で成り立っています。ですから、簿記のできる人ができない人を補えばいいし、力仕事のできる人ができない人を補えばいいでしょう。



しかし、企業とは人の集合体です。ですから構成員の全員の総合力が試されている場でもあるのです。簿記を知らなくても単純作業はできます。ですが、知れば仕事の質が変わります。今自分がしている作業や判断が財務諸表のどの部分に影響しているのかを意識できるようになるのです。例えばコスト意識などは相当な意味があるのではないでしょうか。コスト削減のためにムダを出すなとやみくもに言うよりも、簿記を知ってもらった方がムダを出すことに対する意識が具体的で金銭的なものになるでしょう。



それでは、なぜ、会計一般ではなくて、簿記なのでしょうか。確かに、簿記でなくても財務諸表を知ることはできます。ですから、知識を身につけてもらえるのであれば、どのような手段でもかまわないです。ただし、教育効果を測定することを考慮しなければなりません。教育は効果が測定されて初めてマネジメントの対象になります。



幸いなことに日本には簿記や会計に関する様々な教育インフラが整備されており、その能力認定のための試験も様々なものが整備されています。ですが、簿記は財務諸表の作成方法を学ぶこともあって、簿記を知らないと会計の学習の効果が上がりにくいという側面があります。このことは、あらゆる会計学の教科書に簿記が取り上げられ、多くの紙面を割いていることからも明らかでしょう。逆に言えば、簿記が会計学習の入口として果たしている機能は大きいと考えてもいいでしょう。



また、簿記検定のような第三者機関による能力証明によって、段階的に、且つ客観的に、しかも安価に社員の能力を把握することが可能です。自前で教育体系とその効果測定方法を開発することを考えれば、既存の検定試験等を活用する方がはるかに安価なのは言うまでもありません。



 さて、ここまでの議論を整理しましょう。まず簿記を学習させる理由として、



    社員教育(Off-JT)はまず簿記を学習させるべき。

    企業は財務諸表で評価されるのだから社員は簿記を知るべき。

    簿記を知った社員の方が財務諸表に効く仕事ができる(はず)。



次に、会計ではなく、まず簿記を学習させる理由として、



    簿記は会計の入門として機能している。

    簿記は教育インフラが整っている。

    簿記は検定試験等で教育効果を段階的に且つ客観的に測定できる。

    簿記教育は比較的安価である。



最後にもう一度みなさんに訊きたいと思います。



自分の仕事が財務諸表に与える影響を意識できる社員とできない社員のどちらの方が質のいい仕事をしそうですか?


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